三康文化研究所/三康図書館

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2022年度講演会開催報告

2022年度講演会 開催報告

1.第1回講演会 アーカイブ動画 2.第2回講演会 3.第3回講演会 4.第4回講演会

 

旧大橋図書館創立120周年記念事業 第1回講演会

 

開催日時:2022年6月25日(土)14:00~15:30

開催方法:Zoom・YouTube・会場参加によるハイブリッド開催

テーマ:公共図書館の源流 大橋図書館~出版社がつくった図書館~

講師:奥泉 和久 氏(大妻女子大学非常勤講師)

参加費:無料

定員:Zoom80名・YouTube定員なし

申込者:221名(内、会場参加は10名)

アーカイブ視聴回数:249回


内容:

2022年は、三康図書館が蔵書を引継いでいる旧大橋図書館が創立されてから120年という節目の年にあたります。旧大橋図書館は、明治を代表する出版社「博文館」創業者の大橋佐平(1836-1901)が設立を志し、息子の大橋新太郎(1863-1944)が設立した私立図書館です。

講演では、①大橋図書館が1902(明治35)年615日に開館し、5日後の620日に閲覧を開始したが、このことは、当時の東京で初めて本格的なサービスを実施する公共図書館が出現したといわれたこと、②大橋図書館の存在により、公共図書館が認知されるようになったことを受け、大橋図書館理事である東京市会議員坪谷善四郎(1862-1949)が東京市立図書館の設立を東京市会で建議し、1908(明治41)年に東京市立日比谷図書館(現東京都立図書館)ができ、その後、東京市内の各区に市立図書館ができたこと、

以上2点の理由から、大橋図書館が公共図書館の源流といえるのではないかと考え、大橋図書館の具体的な取組みや、大橋図書館に関係する人物の活動内容等を紹介されました。

 

参加者アンケートには、

「明治・大正期に、大橋図書館が女性に図書館サービスをした点に少し触れられていて興味深かった」、「児童サービスの位置づけ、参考図書館(参考調査を中心とする図書館)になぜ児童室を設けたか。都道府県立図書館における児童サービスの位置づけなど、改めて考えさせられる」、「婦人室や子ども室があったことや、有料でも利用があったことや、検閲から資料を守ったというエピソードなどから、当時の社会の様子と図書館のあり方がわかり、興味深く視聴させていただいた」等のご感想が寄せられました。

 

また、今後取り上げて欲しいテーマとして「公共図書館史」、「博文館や三康図書館に関わる人物について」、「三康図書館の資料保存対策について」等のご意見も寄せられました。

 

講演会のアーカイブ動画

申込者には視聴期間2週間限定のアーカイブ動画を配信いたしましたが、その後動画に字幕を付け、質疑応答部分を削除した再編集版を公開いたします。以下のURLよりご視聴いただけます。

視聴用URL:視聴は三康図書館YouTubeチャンネル

配布資料は以下URLよりダウンロードできます。

レジュメ付録資料スライド資料

 

 

問い合せ先:三康図書館 TEL:03-3431-6073 Mail:sanko@f2.dion.ne.jp

 

 

第2回講演会

 

開催日時:2022年7月30日(土)14:00~15:30

開催方法:Zoom・YouTube・会場参加によるハイブリッド開催

テーマ:江戸時代の料理本の魅力

講師:山本 和明 氏(国文学研究資料館研究部教授/古典籍共同研究事業センター長)

参加費:無料

定員:Zoom80名・YouTube定員なし

申込者:139名(内、会場参加は13名)

アーカイブ視聴回数:155回


内容:

2022年は、三康図書館が蔵書を引継いでいる旧大橋図書館が創立されてから120年という節目の年にあたります。旧大橋図書館は、明治を代表する出版社「博文館」創業者の大橋佐平(1836-1901)が設立を志し、息子の大橋新太郎(1863-1944)が設立した私立図書館です。

講演では、江戸時代に描かれた絵画や、出版された料理本を手がかりに、料理が載せられる一人用の「膳」が食卓の伝統であり、「日本料理は「膳」のなかに工夫が生まれた」とし、すべての料理を一度に「膳」の中に配膳する一汁三菜と飯を基本とした「本膳料理」が江戸時代の料理の基本であり、精進料理や懐石料理の影響を受けていることが紹介されました。

江戸時代の料理のレシピ本には、調味料や材料などの分量は秘伝とされ記載されていない点も紹介されました。また、お菓子についても触れ、最後に三康図書館で所蔵する料理本と菓子本について紹介されました。

 

 

参加者アンケートには、
 「知識のなかった江戸時代の料理本の世界について資料を使って分かり易く説明していただけたので大変勉強になりました。是非三康図書館で料理本を閲覧してみたいと思います。」

「様々な江戸料理本のお話も興味深かったのですが、最後の三康図書館が所蔵される本に関するお話は初めて知ることばかりで、もっとお聞きしたいと思いました。」
 「家族と視聴しました。文化的で知識欲を刺激される時間を持て、大変満足しております。」
 などの感想が寄せられました。
 また、今後取り上げて欲しいテーマとして「変体仮名や絵巻物などについてのお話を期待します。」

「旅の資料、図書館と戦争など」、

「今回の最後に紹介された関東大震災復興事業による寄贈について(大正12/癸亥震災の印)」、

(江戸時代の)鳥の飼育や飼育書について、また他の動物の飼育書について」

等のご意見も寄せられています。


 第3回講演会

 

日時:2022年11月26日(土)14:00~15:30

開催方法:Zoom・YouTube・会場参加によるハイブリット開催

テーマ:三康図書館蔵 方丈記絵巻の世界

講師:田中幸江 氏(二松學舍大学非常勤講師)

参加費:無料

定員:Zoom先着80名、YouTube定員なし、会場先着20名

申込者:183名(内、会場参加は16名)

アーカイブ視聴回数:228回

内容:

講演では、当時は歌人として、今では随筆家として知られる鴨長明(カモノチョウメイ/カモノナガアキラ)810年前の建暦2(1212)に作成した『方丈記』を元に、藤原直之(ヨミ未詳)が描いた絵巻を、河秀房(ヨミ未詳)が寛政7(1795)年写した『方丈記絵巻』についての魅力が語られました。

具体的には、『方丈記』の作品の流れを春夏秋冬に例え、それを表現するために柳、朝顔、紅葉・木の実、行火(あんか)が描かれたのではないか、また、全体の構成が全17図のうち9図が、「安元の大火(1177)」、「治承の辻風(1180)」、「治承の都遷り(福原(現在の兵庫県神戸市)遷都1180)」、「養和の飢饉(1181-1182)」、「元暦の地震(1185)」の「五大災厄」に当てられており、その中の「養和の飢饉」、「元暦の地震」において、僧侶が死者を供養している姿が描かれていることから、『方丈記絵巻』には、災害犠牲者への鎮魂の思いが込められているのではないかと考察しました。

さらに、『方丈記絵巻』の筆写である河秀房が東武入間郡三芳里(現在の埼玉県川越市周辺)在住であったことに着目し、当時の江戸と川越の文人の往来や川越を襲った災害等の周辺資料から、制作された背景を推察しました。 

3回講演会を聴講された方々からは、「田中先生のご講演もたいへん分かりやすかったです。」、「季節感を取り入れるなど絵巻独自の要素があることを知り、絵巻の作者に思いを馳せることができました。」、「方丈記および絵巻の制作、その研究の背景に災害があったことなど、一つの古典からいろんなことがわかり、面白いと思った。」「3.11以後『方丈記』が読まれていることを知りました。」、「絵巻のサイズが意外でした。」、「江戸と川越(埼玉)の交流のこと、「方丈記」と現代のことなどとても興味深く感じました。」などの感想が寄せられました。
 また、今後取り上げて欲しいテーマとして「日本中世の音楽や舞。文学に関するすべて。」、「『伊勢物語』/平安朝の他の文学作品に関するテーマ」、「寺田寅彦の著作について」、「旧大橋図書館の児童室やPR紙『まあるいてえぶる』に関するもの」、「仏教資料関連」、「戦前の旅行本」、「憲秩紊本について」、「江戸時代前期の漢文学に関する内容など」等のご意見も寄せられています。

 

 

第4回講演会

チラシデータ

 

日時:202319日(祝)16:0018:00

開催方法:ZoomYouTube・会場参加によるハイブリット開催

     ※講師はオランダからオンラインにてご講演いただきました

テーマ:「自由空間」としての街路 三康図書館蔵・長谷川雪旦《江戸名所図会 下絵》にみる近世江戸の都市空間とジェンダー」

講師: 安永麻里絵氏(アムステルダム大学人文学部歴史学科 客員研究員

参加費:無料

定員:Zoom先着80名、YouTube定員なし、会場先着 20

申込者:123名(内、会場参加は 5名)

アーカイブ視聴回数:175

内容:

天保5(1834)と天保7(1836)に刊行された『江戸名所図会』は、江戸、および江戸周辺部分の名所旧跡を、まるで江戸から郊外へ旅をしていくような感覚で描きだした絵入り地誌として知られています。その挿絵のもとになった、画家雪旦直筆の下絵を巻子本にした三康図書館所蔵『江戸名所図会下絵』を題材に、比較文化、美術史、展示論がご専門のアムステルダム大学人文学部歴史学科客員研究員 安永麻里絵氏が、「『自由空間』としての街路 三康図書館蔵・長谷川雪旦《江戸名所図会 下絵》にみる近世江戸の都市空間とジェンダー」と題して講演されました。

 安永氏は、1718世紀のアムステルダム、江戸、バタビア(現在のジャカルタ)の都市空間をジェンダーの観点から比較研究することを目的としたオランダ学術研究機構(NWO)学術研究費助成研究プロジェクト「『自由空間』としての街路・近世ユーラシアにおけるジェンダーと都市空間」に参画し、江戸についての研究をご担当されました。

江戸時代には、江戸の人々の日々の生活や行動について、具体的な人物の特徴や場所を特定できる公的文書のような現存する文字資料がきわめて少ないことから、安永氏は視覚史料として名高い『江戸名所図会』に着目しました。調査の過程で、この資料を使用するにあたり、『江戸名所図会』の挿絵が現実の光景を描き出したものであるかを確かめるための根拠となる資料を求め、三康図書館が所蔵する《江戸名所図会下絵》にたどり着きました。ここに収められた百点にのぼる下絵をひとつひとつ出版された『江戸名所図会』の挿絵と対照させていくなかで、安永氏は、雪旦が類まれなる観察眼と巧みな筆さばきで、訪れた場所で目にした情景をスケッチし、本の挿絵を作り上げていった様子を明らかにしました。

 この発見をもとに、研究ではさらに『江戸名所図会』の挿絵について数量的な観点から調査を行い、人物(どのような人が)、位置情報(どこで)、出来事(どのような行動をしていたのか)を示す情報をデータベース上に蓄積し、江戸の都市運営に関する法律や建築などの物質的な側面に関する史料とも照らし合わせながら、江戸の都市空間で人々はどのように行動していたのか、とりわけ都市空間と行動の関係にジェンダーによる違いはあるのか、を探りました。

江戸の町人人口の推移がわかる別の史料(人別帳)から、江戸の街路には男性が多く女性が少なかったことが想像されるのですが、調査の結果、全体的な傾向としてはこの推定が当てはまることが確認できた一方で、このイメージを裏切る意外な側面が明らかになりました。たとえば、往来には近隣の農村部から農作物などを売りに来ている女性の姿が見え、また、ほとんど男性しかいない日本橋魚市にも子守をしている女性がいることなどが発見されました。子守は女性が担うべき仕事のひとつとしてジェンダー規範と深くむすびついており、家の中で営まれるはたらきというイメージがありますが、外の空間(街路)もまた子守りの場所になっていたことを、『江戸名所図会』の挿絵が示しているのです。その上、《江戸名所図会下絵》には、浅草の寺町の一角で子供を抱っこする男性も描かれています。こうしたことから、江戸時代のジェンダー、つまり性別によって振り分けられた女性の役割、男性の役割といった規範やそれに基づく人々の行動と、中心街から下町、寺町といった多面性のある江戸の都市空間の関係というものをもう一度考え直す必要があるのではないか、と講演されました。また、近世の都市江戸という場所とそこに暮らす人々の姿をいきいきと描き出した三康図書館所蔵《江戸名所図会下絵》の美術史的・文化的価値を改めて強調されました。

 4回講演会を聴講された方々からは、「絵の資料の捉え方について知ることができました」「下絵図を見る観点が変わってきました」「地図が江戸時代の社会や日常生活の研究資料になるというのは面白かった」など多くの感想が寄せられました。
 また、今後取り上げて欲しいテーマとして「今回のように所蔵資料との絡みのある講演を希望します」「昔の人々がどのような思いで生きていたのかということが少しでも垣間見る機会があればいいなと思います」等のご意見も寄せられています。

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